記念

お祝いがまともにできそうにありません。

ので、ケータイで細々と作製していたｓｓをひとつ。
たぶんまだうpしてなかったかと。

イツワリノウタヒメで衝撃だった公園シーン。
なんか、ミハの本質が現れているように見えたのね。
自分の血は孤独の証明みたいであまり好きじゃないと思うんだよね。
でもそれが大切な人を守る力にもなるという矛盾と葛藤。
そんなかんじで。





***********************

星数え



1、2、3、4、・・・・・・・・

暗いドームの天井を見上げ、壁の向こうの光を辿る。
青空を映していた巨大なスクリーンは日の沈む真っ赤な映像を最後に色を失い、透明な空は重い宇宙の闇に変わる。
ドーム全体に張り巡らされた空調ダストと船内温度調節機能だけがゆいいつ昼間の残骸を供給し、ぬるい風が肌をなめていく。
いつもと同じ歪な夜が訪れる。
その不自然さがあたりまえの顔をして支配する、フロンティアの夜である。

宿舎近くの公園、噴水の傍らに佇んで、ミハエルはひとり夜空を見上げていた。

・・・百、101、102、・・・・

愛用の縁なし眼鏡は胸ポケットにつっこみ、障害のない視界で闇に浮かぶ無数の斑点をひとつひとつ数えていく。
混血のミハエルはとても眼がいい。
普段は眼鏡をかけて良すぎる視力を矯正しているが、時折こうして星を数えて目を鍛る。
スナイパーの瞳。
混血ゆえの異能。
その視力が衰えぬよう、今以上に鋭くなるよう。
夜空を見上げ、星を数える。


辿った星が2千を越したころ、ふいにくらりと視界が歪んだ。

―――いつもの、やつだ。

星数えをすると、頭上に広がる宙があまりにも深く濃密で、その色に飲み込まれるような錯覚をおこす。
この重力に押し潰されるような、あるいは重力のないあの宙の中に飲み込まれるような。
宇宙の闇の中にあっては、無数の星の輝きもただ不気味に己を嘲笑しているように見えた。
訪れるのは果てしない虚無感。
どこにも属せない混血の孤独。
異能を駆使する軍人の罪。
それでも、眼を凝らして星を数える。



ふいに、甘い香りがただよった。
が、別段驚くことはしない。
異質とわかる尖った耳は、近づく足音でそれが誰だか知らせていた。

「星座いくつ見える？」

子供のような質問に思わず口許が緩んでしまう。

「たくさん」
笑いを堪えて答えると、
「ふ～ん」
ちょっと喜色を帯びた声が返る。
振り向くと、アルトは噴水の淵に腰かけてさっきまでの自分と同じように空を仰いでいる。

街灯に照らされた艶やかな宙の色。瞬く琥珀の星。

「夜の空もキラっキラに見えるんだろうな、お前の目。」

天を見上げて輝く瞳。
宇宙の孤独から俺を拾い上げたこの世で一番あかるい光。



混血ゆえの異能がお前を守る力となるなら。


「……7千2百7十」

横顔を見つめてつぶやくと、振り向いたアルトの瞳が不思議そうにまたたいた。

夜空を見上げる。
星を数える。



隣には一等星。


***********************